コラム①「祇園精舎」 | ペコ丸の古典芸能よもやま話
こんにちは。日本の伝統芸能に興味を持っているチワワのペコ丸です。今日は《祇園精舎》についてお話したいと思います。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。」誰でも一度は聞いたことがある『平家物語』の始まりの一節です。
おそらく小学校の教科書や中学校の古典の授業で習ったことがあるのではないでしょうか。ただ不思議なことに、小泉八雲の怪談『耳無芳一』などで、平家物語が琵琶法師によって語られることは知っていても、実際に平家琵琶の語りとして聴くという機会はありません。身近な一節なのに、実際に平家琵琶で聴く機会に出会わないのはなぜなのでしょうか。
平家物語は作者が分かっていません。壮大な物語なので口承で伝えられ、盲僧たちによって演奏される中で統一されていった「平家琵琶と称される「語り物」といわれるジャンルの1つになりました。
鎌倉時代から始まったとされ、物語りの内容は歴史的事実とは違って、脚色されている部分が多いことも知られています。源氏の目をかいくぐる為、平家の衰退と没落と散っていく平家の人々をより印象的に描くことによって「無常の美」という文学的要素が深まった平家物語を作り出したのではないかと思います。
「平家琵琶」は室町時代に全盛期を迎え、江戸時代においても、幕府の保護のもとでその命脈を保っていました。しかし、やがて流行り始めた三味線に抑えられていき、明治時代には保護もなくなった為に平家琵琶奏者の人口は減少したようです。もちろん、現在も活躍されている方がおられますので、WEBで検索していただければ調べることができますし、長栄座では、令和3年1月17日14時開演の新春公演 源平芸能絵巻「赤と白と」の冒頭で菊央雄司さんが実演しますので、是非ともお運び下さい。
僕も、飼い主と一緒に、一度だけ屋外で女性奏者の弾き語りによる平曲琵琶《祇園精舎》を聴いたことがあります。夜の帳が下がり暗闇が広がる中、松明の灯りに浮かび上がる奏者がとても幻想的だったことが今でも鮮明に思い出されます。琵琶の音と女の人の語りに、風の音が効果音となって、古の合戦の声が聴こえてくるかのようでした。
平家琵琶と声の迫力で僕と飼い主を圧倒した《祇園精舎》は、今も学校教育を通して、脈々と若者にも受け継がれています。2007年にはヤマハが開発した音声合成システムVOCALOIDによる、初音ミクという機械の歌い手も登場しました。語り物ではなく、歌になっていますが、平成・令和にも《祇園精舎》が息づいているのが面白いと思うのです。コメント欄には「暗記のテストがあるから助かる」の言葉が溢れ、若者たちのテストへの苦労がしのばれます。
また『千本桜 feat.初音ミク』(2011年黒うさP作詞・作曲・編曲)を、歌舞伎義経千本桜を題材にアレンジし、源平合戦の様子を描いた『義経千本桜 − 和楽・千本櫻』も源平合戦を知らない方には、是非、聴いていただきたいです。こちらもYouTubeで聴くことができます。
人間は音楽や文学を様々な手法で後世に伝えていく、不思議な生き物だと、犬である僕はつくづく思うのです。
ペコ丸(代筆:平山聡子)