弁財天① 弁財天とは | ペコ丸の古典芸能よもやま話
こんにちは。ペコ丸です。長栄座が、また面白そうな公演をするときいて、僕も顔を出しました。平家物語のときは色々な場所を旅して楽しかったので、今回はどんな公演だろうとワクワクしていたら、「日本三大弁財天」を取り上げると知りました。
弁財天といえば、七福神の紅一点で知っている人も多いと思います。僕もそうです。また、楽器を持っているイメージがあったので、音楽上達の神様だと思っていました。でもよく考えると、弁財天についてはほとんど何も知らないことに気付きました。そこで、少し調べてみることにしました。
弁財天はインドの神様
なんと、弁財天は日本の神様ではなかったのです!七福神の中で、日本の神様はゑびす神だけで、あとはインドや中国がルーツの神様でした。国際色が豊かなのですね。
弁財天はヒンドゥー教の女神・サラスヴァティーで、ヴィーナと呼ばれる琵琶に似た弦楽器を持っています。創造神ブラフマーの妻であり、実在したサラスヴァティー河の化身とされ、流れる川のせせらぎから「流れるもの」を連想する音楽や言葉などの才能をもたらす神とされました。そして、日本では川の流れる音にちなんで「妙音天」、またよどみなく流れる水のように弁舌がさわやかであるとの連想から「弁才天」と意訳されました。
弁財天と弁才天
このように、本来は才能をもたらす「弁才天」でしたが、のちに財をもたらす福神として信仰される宇賀神と習合することで、財福の神ともなった「弁才天」は「弁財天」と表記されるようになり、江戸時代ごろにはこの書き方が広く定着したようです。
弁財天の御姿について
実は弁財天には、様々な姿があります。「8本の腕を持ち(8臂)、武装をしている弁財天」「頭の上に、別の人物の顔を乗せている弁財天」「2本の腕で(2臂)、天女姿(唐服姿)で琵琶を持っている弁財天」などです。
さて、皆さんはどの弁財天を見たことがありますか?
僕がイメージする弁財天は、天女の姿(以下、唐服姿を天女姿で統一)で琵琶を持っているお姿です。ところが、この天女姿の歴史は実はまだ浅く、滋賀県や京都でも、ご本尊としては、なかなかお目にかかることができません。
琵琶を持っている弁財天は、密教で用いる両界曼荼羅のひとつ『胎蔵曼荼羅』に描かれており、『大日経』では妙音天、美音天と呼ばれ、ヒンドゥーのサラスバティーに近い姿をしています。ただし、『胎蔵曼荼羅』での弁財天は、広く皆が知っている天女の姿ではなく、菩薩の姿をしています。
弁財天と吉祥天
天女の姿の弁財天は、江戸時代になり、七福神が信仰されるようになり、認識されるようになりました。この天女姿の弁財天のルーツについては、調べてもよく分からなかったのですが、元々、七福神の女神は弁財天ではなく吉祥天だったようです。吉祥天もインド由来の女神であったことから、昔から弁財天と混同されることもあったようですが、この吉祥天は天女姿をしていました。時代が進むにつれ、うまく日本の神様と習合して日本人に受け入れられた弁財天に対し、吉祥天信仰は徐々に薄れていき、弁財天が代わりに七福神に入れられるようになりました。その際に、吉祥天と同じ天女姿をした弁財天となったようです。
弁財天を探して
さて、実際に琵琶を持った弁財天を拝見するため、僕が住んでいる京都市内を巡ってみました。
最初に向かったのは、京都の六波羅蜜寺です。ここの弁財天堂に祀られている弁財天はサラスヴァティーに御姿が近いとのことでしたので行ってきました。2021年6月は、残念ながら弁財天堂は工事中でしたが、境内に祀られている銭洗い弁財天にはお参りすることはできました。載せてある写真を見れば分かると思いますが、この弁財天は天女姿でした。ちなみに、滋賀県では滋賀県彦根市大師寺の境内に、天女姿の弁財天がおられるようです。
次に向かったのは、京都御所内にある白雲神社です。白雲神社の弁財天像(2臂の坐像)は、『胎蔵曼荼羅』に見えるのと同じく、菩薩形で琵琶を演奏する形の珍しい像です。この像は琵琶の名手として知られた太政大臣・藤原師長が信仰していた像と言われ、様式的にも鎌倉時代初期のもので、日本における2臂弁財天の最古例と見なされています。
なお、この弁財天は秘仏ですので参拝することはできません。
代わりに、弁財天が描かれた絵馬を買ってきました。この絵馬に描かれているのは、また御本尊とは違う御姿でしょうが、菩薩のようではあります。
最後になりましたが、琵琶を持つ弁財天で有名なのは、今回の長栄座公演「むすひ」第3部で取り上げられている、相模江ノ島 妙音弁財天だと思います。ただ、楽器を持っておられる弁財天の中でも、かなり珍しい御姿をされているので、この妙音弁財天については、是非、今後じっくり紹介したいと思います。また、「8本の腕を持ち(8臂)、武装をしている弁財天」「頭の上に、別の人物の顔を乗せている弁財天」についてもお話していこうと思います。どうそ、お楽しみに!!
ペコ丸(代筆:平山聡子)